鳴り物入りの大型物件がまさかの苦戦?
最近、上大岡エリアでマンションを探された方はご記憶でしょうが、この数年は有名デベロッパーによる建設ラッシュでした。以下に挙げたマンションが短期間に竣工する非常事態で、この時期に家探しをされた方は選択肢が多すぎて大いに迷ったはずです。
物件名 | 売主 | 総戸数 | 駅距離 | 竣工時期 |
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ザ・マスターズガーデン横濱上大岡 | 野村不動産 | 99戸 | 6分 | 17年12月 |
パークナード横濱上大岡 | パナソニックホームズ | 59戸 | 10分 | 19年2月 |
ヴェレーナグラン横濱上大岡 | 大和地所レジデンス | 76戸 | 11分 | 20年1月 |
ヴェレーナシティ上大岡 | 大和地所レジデンス | 132戸 | 13分 | 20年2月 |
ブランズシティ横濱上大岡 | 東急不動産 | 177戸 | 8分 | 20年2月 |
プライムパークス上大岡ザ・レジデンス | 京急不動産 | 203戸 | 8分 | 21年1月 |
ガーラ・レジデンス横浜上大岡 | エフ・ジェー・ネクスト | 93戸 | 13分 | 21年2月 |
21年5月現在、竣工が早かったザ・マスターズガーデン横濱上大岡(以下、マスターズガーデン:MG)、パークナード横濱上大岡(以下、パークナード:PN)、ヴェレーナグラン横濱上大岡(以下、ヴェレーナグラン:VG)、ヴェレーナシティ上大岡(以下、ヴェレーナシティ:VC)までの4物件は完売。最後発のガーラ・レジデンス横浜上大岡(以下、ガーラ・レジデンス:GR)もつい先日完売しました。ブランズシティ横濱上大岡(以下、ブランズシティ:BC)は、一段高い価格帯や特殊な半地下住居が影響して完売に至らずも、残すはあと4部屋というところに来ています。
こうしたライバルの状況を横目に、売れ行きが捗々しくない物件があります。それがプライムパークス上大岡ザ・レジデンス(以下、プライムパークス:PP)です。竣工から2ヵ月半が経過した先月上旬の段階でも、総戸数の半数近い住戸が未契約でした。
しかし、まさか。上大岡駅といえば京急線の特急列車も止まる要衝で、駅前に百貨店もタワーマンションも建つ横浜副都心。もちろん、京急グループにとっても肝煎りの開発エリアです。それでいて、近年ではエリア最大規模の新築マンションとなれば、いやが上にも期待が高まるというもの。事実、モデルルーム公開・販売価格発表前までは、駅距離10分以内の好立地やスケール感が同等のブランズシティをベンチマークとして、どちらを選ぶか迷う方が大勢いました。そうであれば、この物件が支持を集めにくかった背景を探れば、宝探しの手掛かりが見えてくるというものです。
結果論で言うのはずるいけれど
まずは本稿で俎上に載せる物件の立地を確認してみましょう。下図は上大岡駅を中心に、各社の物件と駅距離を書き出したものです。本稿で取り上げる7物件の現地案内図では、すべての物件を網羅できる地図がなかったので、大和地所レジデンスさんが2021年秋に売り出すヴェレーナシティ・パレ・ド・マジェステの地図を下敷きにしています。

さて、青色の物件は、駅から物件までの道のりが平坦ないわゆるフラットアプローチのグループ。赤色の物件は上大岡エリアの特徴でもある坂道を上るグループです。
ここで、各社の販売価格を見比べると、先陣を切ったマスターズガーデンは駅距離では最短6分の強みを生かし、平均価格が6,100万円と高めの設定でスタート。坂道が厳しい立地なのですが、優美な外観あり、優れた設備あり。著名なマンションブロガーさんも絶賛する会心の出来で人気を博しました。これがベンチマークとなり、より駅遠の立地となるパークナードは一段安い価格設定で勝負。そしてさらに駅遠で坂の上となるヴェレーナシティは、なんと平均面積100 m2という突き抜けた提案で買主を魅了! 価格競争力の高さも手伝って見事完売しました。
物件 | 駅距離 | 立地 | 平均価格(*1) | 平均面積(*1) | 平均坪単価(*1) |
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MG | 6分 | 坂道 | 6,100万円 | 76 m2 | 260万円 |
PN | 10分 | 坂道 | 5,400万円 | 74 m2 | 240万円 |
VG | 11分 | 平地 | 5,500万円 | 71 m2 | 250万円 |
VC | 13分 | 坂道 | 5,300万円 | 100 m2 | 170万円 |
BC | 8分 | 平地 | 6,200万円 | 73 m2 | 270万円 |
PP | 8分 | 平地 | 5,500万円 | 64 m2 | 280万円 |
GR | 13分 | 平地 | 5,300万円 | 66 m2 | 260万円 |
平地勢では、ヴェレーナグランとブランズシティがほぼ同時に販売を開始していますが、東急ブランドのブランズシティに対して安さとセンスの良さを上手くアピールしたヴェレーナグランは早々に完売。ヴェレーナグランは目の前が公園なので陽当たりも良く、非常に評価された物件ですが、これでもかというくらい線路脇のロケーションを見ると驚きます。また、私がイチ推しするディスポーザーがないなど、物件のスケール的に諦めざるを得ない設備もありました。

ブランズシティは価格帯が一段高く、南向きの3LDK住戸は下層階でもほぼ6,000万円。まだ買える4LDKの住戸は7,000万円台後半~8,000万円台中盤となりますので購入者層が明らかに違います。この価格帯が買える層になると、上大岡以外の人気エリアも余裕でターゲットに入ってしまい、営業マンには別種の苦労が加わります。とはいえ、そこはさすがの東急ブランド。時間はかかりましたが、上質な設備と相まっていよいよ完売が見えて来ました。
最後発のガーラ・レジデンスですが、平地勢では最も駅遠の立地。間取りは一段コンパクトながら、坪単価を見ればなかなか強気の水準。東急や京急といったライバルに比べればブランド力もなく、苦戦もあり得る状況でした。ところが、ここは立地を売りできない分を設備につぎ込み、便利設備をてんこ盛りして対抗。徒歩5分離れるライバルとの違いをアピールして完売に漕ぎつけました。
こうして並べると、プライムパークスの苦悩が見えるでしょうか。小振りな間取り。それでいて一段高い坪単価と割安感のない販売価格。さらに、コストダウンのためにアピールしづらい設備構成。しかし、販売を難化させた事象は、競合の存在そのものではなかったかと考えます。
割高に見えたことが原因なんだ
最近はマンションの資産性だのリーセールバリューだのといった要素も住まい選びの基準になりつつありますが、大抵の買主にとって重要なのは販売価格。これしかありません。いくら将来性があると煽られても、予算的に買えないものは買えないのです。
知られた話ですが、プライムパークスの立地は元々はみなとみらいの大手エンジニアリング企業の土地で、これが京急グループに渡るまでに2回転売されています。よって、用地コストが上がったプライムパークスは、購入者層が手を出せる現実的な価格で売り出すべく、様々な対策を講じる必要がありました。
結果、プライムパークスが選択したのは、直接のライバルであるブランズシティに対して割安に見える販売価格とすること。そのため、坪単価の高さが見えないように個々の部屋を小さくする。さらに、建設コストのかかる設備を削減し、販売価格を抑える手段に出ました。
これはもちろん合理的だったのですが、プライムパークスの売り出し時期にはまだブランズシティが販売を継続していましたし、最後発のガーラ・レジデンスも入れて3社が同じ場所でモデルルームを営業していました。結果、設備に自信のある他2社は買主に対してプライムパークスとの比較を積極的に勧め、自社の強みを存分にアピールできたのです。とくに、売主の知名度に劣るガーラ・レジデンスは、もし近所に格好の比較対象がいなければ販売にもっと苦労していたかも知れません。

要は「相場を分からなくする」こと
新築大決戦に沸いた上大岡エリアも、今では平穏を取り戻しつつあります。ブランズシティの販売が終了すれば、このエリアで新築の旗を掲げられるのはプライムパークスのみ。価格や設備面での比較対象がいなくなれば、販売もよりスムーズに進むでしょう。
プライムパークス単体で物を見たとき、この物件が販売価格に対して不当に悪いということは決してありません。確かに、大型物件であれば付いているべきディスポーザーがなく、ミストサウナやスロップシンク、各住戸のハンズフリーキーのような便利アイテムがないなどの課題はあります。大型物件にしては簡素な共用部も、大手企業のお高い大規模マンションに住むんだからもっと頑張ってよ、という声も聞こえてきそうです。
しかし、駅力の高い上大岡駅への余裕のアクセス。日々の買い物に便利なロケーション。小学校にも近く、子育てに有利な住環境。もしライバル不在の市場で勝負できていたら、プラスのメリットがより素直に評価されていたはずです。
この話の要点はここにあります。すなわち、比較対象がいないエリアの物件は、相場が分かりにくくなるということ。その結果、買主は売り出し中の物件が高いのか安いのかを判断する手がかりを得ることが難しく、売主が商売を有利に進められる可能性があること。したがって、売主サイドからすれば、自社の物件と直接のライバルになりそうな物件があれば、販売時期が重ならないことが理想的なのです。
新築マンションの計画を大々的に発表したのに、販売予定価格や販売開始時期をなかなか明かさない売主というのはザラにいますね。そこには、有力なライバルの完売を辛抱強く待ち、自社の販売価格を割高に見せまいとする思惑が潜んでいるからなのです。